更年期障害と言われて一般的に想起するのは、女性の更年期。ところが、男性でも更年期障害になるということをご存じでしょうか。
一般的な認知度を調べてみましょう。2022年の厚労省のデータによると、20歳から39歳の男性の過半数が「知らない」という結果でした。つまり、これから自分の身に起こり得ることを全く知らない、ということです。
本記事では男性更年期への理解を深めるため、Dクリニックの運営に携わる武田匡弘さんに「男性更年期とは何か?」をお伺いしました。武田さんは「女性が特有の疾患で悩んだときに婦人科を気軽に受診するのと同様に、男性が自身の体調不調に悩んだときにDクリニックを最初に思い浮かべる存在にしたい」という思いのもと、クリニックの運営に携わっています。
今回は、そんな武田さんに男性の更年期障害について詳しくお話を伺っていきます。
男性にも訪れる”更年期障害”
編集部
女性だけじゃなくて、男性でも更年期障害になることがあるんですね。
武田さん
そうなんです。 男性の更年期障害は、歳をとるにつれて男性ホルモンの主成分、テストステロンが減ることで、いろんな症状が出てくる状態のことを言います。
編集部
テストステロンですか。あまりピンとこないですね。
武田さん
女性は閉経の前後5年、45歳〜55歳に更年期障害になるといわれていますが、男性の場合は20歳ぐらいをピークにテストステロンがだんだん減ってきて、40代を過ぎたあたりから症状が目立ってくることが多いんです。

引用:男女共同参画局「平成30年版男女共同参画白書」より。
女性と比較すると緩やかだが、年齢を重ねていくにしたがってテストステロンが下がっていく。
武田さん
ただ、テストステロンが減るのは年をとれば自然なことなので、全ての男性に症状が出るわけじゃないですし、症状の有無や重症度も人それぞれです。
患者数はおよそ600万人?
編集部
男性更年期障害の発症率は最近増えていると伺ったのですが、日本での正確な発症率の推移はよくわからないんですよね。
武田さん
ええ。患者数はおよそ600万人とも言われていますが、そのほとんどは診断も治療もされていないと考えられています。
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編集部
受診する人は増えてきているんでしょうか?
武田さん
そうですね。 症状を訴える方が年々増加しており、深刻な社会問題とされているほどなんです。
引用:厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」より。
更年期障害の可能性があると考えている人の割合は、40 歳代男性で 8.2%、50 歳代男性で 14.3%であった。
武田さん
まだまだ世の中に浸透しているとは言えませんが、社会的認知度の向上に従って、患者の顕在化が進んでいる可能性があります。
ライフイベントで環境が変わると発症する場合がある
武田さん
結婚や子育て、転勤や仕事での役職の変化などのライフイベントって多いですよね。
環境が変わるストレスが要因の1つとなって更年期障害の症状が出てくることも多いんです。
編集部
環境が変わるタイミングでの発症が多いということですね。
太り過ぎや生活習慣の乱れも注意
武田さん
1つのきっかけにはなります。あとは、太りすぎや生活習慣の乱れも男性ホルモンが減る原因になります。 意識をしないと生活習慣を整えていくのって難しいですよね。男性更年期の治療はそういった面からもアプローチをしていく必要があるんです。
編集部
生活習慣の積み重ねも関係あるんですね。若いうちからお酒の飲みすぎや喫煙のような悪い習慣はなるべく減らしていきたいですね。
男性の更年期障害における3つの症状
編集部
男性の更年期障害って、具体的にどんな症状が出るんですか?
武田さん
男性の更年期障害の症状は大きく分けると身体の症状、精神的な症状、性機能の症状の3つに分けられます。
夜中に汗をかくことが増えたら要注意!
編集部
身体の症状にはどんなのがあるんですか?
武田さん
ほてりや多汗症状、めまい、太りやすくなる、睡眠の質の低下、骨が弱くなるなどが挙げられます。
編集部
女性の更年期と同じような症状がでるんですね。
体が凝ったり、衰えを感じるすることもある
武田さん
他にも、筋力の低下や疲労感などもあります。体が凝ったり、関節痛がでたりと、日常生活にも影響が出てくることがあるんです。
筋肉や骨が弱くなることは、将来的にサルコペニアや骨粗鬆症になるリスクにもつながります。
編集部
骨の強さにまで影響があるなんて怖いですね。
武田さん
男性ホルモンが減ると、肌のハリ・ツヤが失われたり、お腹周りに脂肪がついたりと、体全体にいろんな変化が起こりやすくなるので注意が必要です。
男性更年期障害で仕事の能力が下がる!?
編集部
男性更年期障害で起こる精神的な症状にはどんなのがあるんですか?
武田さん
テストステロンは脳の神経伝達物質にも影響を与えるので、うつ症状、やる気の低下、集中力の低下などがあります。
イライラしたり怒りっぽくなったり、仕事の能力が下がることも少なくないですね。
編集部
仕事に身が入らなくなったら、更年期障害が原因だったという可能性もあるってことですね。
武田さん
そうですね。 やる気や集中力が下がることで、仕事へのモチベーションが下がったり、新しいことへの興味も薄れて、マンネリを感じるようになることもあります。物事に没頭できなくなったり、ミスが増えたりすることで自覚される方が多いです。
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男性の更年期は見過ごされがち!?
編集部
急にやる気をなくしたように見えたり、集中できなくなったりと問題は深刻そうです。
武田さん
ええ。男性更年期障害は、ただの老化やちょっと具合が悪いだけと見過ごされることが多いんです。 やる気がなくなるだけじゃなくて、ちょっとしたことで怒り出したり、攻撃的になったりして、家族とのトラブルになることもあります。
編集部
旦那さんやお父さんが急に変わっちゃったと感じたら、更年期障害かもしれないと考えてあげるといいのかもしれませんね。
武田さん
そうなんです。本人が気づきにくい症状も多いので、診察を受けに来る患者さんの中には、「男性更年期じゃないの?」って奥さんが連れてくることもあります。
うつ病だと思って受診したら加えて更年期障害の各症状が隠れていたってことも多いですね。
男性更年期による勃起不全(ED)
編集部
男性更年期における、性機能の低下症状とはどういったものがあるんでしょうか。
武田さん
男性更年期障害の中で一番多い症状の一つが性欲の低下と勃起不全(ED)です。他にも夜間頻尿の増加などもおこります。
これらの症状は、男性ホルモンの低下だけでなく、加齢に伴う血管の変化や神経の機能低下、ストレスなども関与しているんです。
性生活の不和でパートナーとの関係悪化
編集部
性機能の問題は、パートナーとの関係性にも分かりやすく影響がありそうですね。
武田さん
性機能の問題は、男性としてのアイデンティティや自信にもつながりますので、重要な問題ととらえる方もいらっしゃいます。
また、性生活の不和からパートナーとの関係が悪化し、それがさらにストレスとなって症状が悪化する、といった負のスパイラルに陥るケースも少なくありません。
症状を感じたら医療者に相談を
編集部
この記事を読んで、思い当たる症状があると気付く男性もいるかもしれませんね。
武田さん
男性更年期はいろいろな症状を引き起こす病気なので、身体や心、性機能の変化を全体的に見て、治療することが必要なんです。
早期に対応できればそれだけ早く症状を改善できることもありますから、家族やパートナーの協力を得ながら前向きに治療に取り組んでいただきたいです。
編集部
原因のわからない不調が増えてきたと感じたら、恥ずかしがらずに専門のお医者さんに相談することが大切ですね。
武田さん
ええ。男性更年期は誰にでも起こり得る変化です。 症状を感じたら、一人で抱え込まずに、まずは信頼できるお医者さんに相談することをおすすめします。
次回は男性更年期における予防と治療法
編集部
武田さん、本日はありがとうございました。 次回は男性の更年期障害における予防と治療法についてインタビューさせていただきます。
武田さん
こちらこそありがとうございました。次回もよろしくお願いします。